短編 「ぼくは斎藤マイケル」

※この内容はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。


僕は理系の学生だった。当時は貧しく、僕はつねに生物について考えていたが、アカデミックな書籍を購入する金を、手に入れることは難しかった。

僕の家は貧しかった。父親は会社員をしていたが、なかなか昇進できず、いつも帰ってくるのが遅かった。

だが今は僕の身の上話をしたいわけではない。

僕は猛烈に肉欲に目覚めていた。

僕は18歳で、なんとかしてこの自身の理性の障壁となる衝動を解決したかったし、また自己実現としての異性というのは、それは確かに自己のステータスと密接な関わりをもつものであったから僕にとって重要なことであった。

高校時代、僕はみすぼらしい格好をし、髪型にもかまわず、まるでガリ勉君という境遇をもっていたから。そう、僕は文化部で、手芸を愛し、女性を忌み嫌った。ぼくはダサかった。そして僕は僕自身を蔑みあざ笑う若者の価値観の平均値の磁場を本気で憎悪していた。

ぼくは大学で変わりたかった。

一流大学とは言えなかった。誰も名前も知らないような大学で、僕のキャンパスライフはスタートしたわけだ。リベンジをしたい。でもそのリベンジが、おそらく、その才能の種だとかハングリー精神が僕にリターンするなにがしかの社会的功績の果実は僕には与えられない。それはもう僕がそのようなルーツ(遺伝的先天的決定)を得た時点で明確に規定されており、赤と白の絵の具から黄色が生まれないように、また、黒人の男女から白人の赤子が産まれないように、これはまぎれもない事実であった。僕は生まれながらにして、夢を見ることを禁じられている。


そもそも見るがいい、電車にのる無数の人間の数々を。彼らは何か昆虫の標本のようにも見える。彼らの中の、一塊がなんらかの事故事件によって命を失っても、僕らの人口は一定のスパンを得て回復し元の状態を保つであろう。

そしたら僕というのは、排他的でかつ至高な快楽というものを得ることを禁じられている。僕はきっと今の状況でメディアに騒がれるわけでもなければ、格別ちやほやされるわけでもない。僕は、きっと国立の大学院に入ることはできない。


そのような前提は、何よりも僕を傷つけた。そのような不公平を。町を歩く数々の魅力的な女が僕ではなく「非本質的」な男を選好するというこの事実を。


僕はそれだから、なにか歪んだ形でのリベンジを望んだ。自分よりも劣った人間をすかさず探すこと。そしてその人間を見下し、甲高い声で嗤い、クズのレッテルを貼ること。そのためには味方が必要だ。



はじめてのコンパが来た。


(つづく)